香港旅行始末記 二


欠航という予想だにもしない展開に直面し、旅行中止という最悪の事態が頭によぎる中、アナウンスの言葉に耳を澄ます我々。 どうやら明日の代替便と今夜のホテルの手配をしてくれるらしい。“明日”という時点で既に本日中に日本を出国することは不可能に。我々も含め、うんざりした表情の乗客たちは、その手配をしてもらうためにカウンター前に並ぶことなり、ゲート前がごった返し始めたのでした。

もうこの時点で何時間も待たされているので、この後に及んで更に列に並ぶのはとても苦痛でしたが、今さら後にも引けない。行く前から香港ホンコンと騒いでおいて、結局行けませんでしたでは泣くに泣けん、振替休日の休みを一人淋しくおウチで体育座りして過ごすなど言語道断なのであり、こりゃあたとえ親の死に目に会えなくなるとしても香港に行くしかない、と固く決意したのでした。

しかし、そんな決意が脆くも粉砕されかねないほどに、列の進みが遅い、頗る遅い。このままではホテルに泊まる前に夜が明けてしまうわ、と思うほど列が進みませんでした。周りでは疲れ果てて座り込む人多数、旅行代理店からの電話に苛立ちをぶつける人や社員に詰め寄る人など、もう全てを放り投げたくなるような状況になってきました。自分の我慢の臨界点はとっくにオーバー、もう既にメルトダウンしているような状況でしたが、22時、23時、0時、1時と待ち続けて、ようやく次の番というところまで来ました。

そこにいたって今度は、我々の前にいたラーメン屋のバイトみたいな20代ぐらいの男性が、突然社員に向かってクレームを付け始めました。どうやら彼曰く、自分は昨日(16日)のU社のフライトに乗り遅れた、成田の出国手続きで手間取ったから自分は悪くない、そのため17日のフライトに振り替えてもらったが、今度は欠航と来た、自分は足も悪いし茨城の水戸くんだりからわざわざここまで来ているのに、今回欠航になったせいで都合3日間も成田に留まることになった、なんとかして18日午前に香港に着く便を用意しろよタコスケ、ということでした。

これには流石に社員も困惑していたようでしたが、無い物は無い、無い袖は振れない、というわけです。至極当たり前の理由であり、ここらへんは社員さんに同情したいところですが―――“そもそもねぇ、あんたが16日のフライトに時間に余裕をもって来ていれば良かっただけの話じゃないの?今さらゴチャゴチャここで言ったってなにも解決しないだろうがこのドアホ!”と何度も心の中で罵っていました。まぁさすがの彼も深夜で疲れていたのか、まもなく不承不承の態でチケットを受け取り去って行ってくれましたが―――去り際に彼のバッグの後ろに挿さっていた本が見えました。タイトルは「成功するための50の法則」みたいな奴。どんなに意思が強くても、能力があったとしても、時間にルーズじゃダメですよ、お兄さん・・・。

ようやく自分たちの番が回ってきたのはもう午前2時になろうかという頃。早速手続きを開始してもらったものの、衝撃的な事実を宣告されました。さっきまで取り扱っていた福岡経由で香港行きの便(現地16時着)がなくなったから、関空経由で香港行きの便(現地21時着)にせざるをえないと言うのです。・・・21時ィ〜?丸1日おじゃんになるのかよ!と我々は怒り心頭。ちなみにこの代替便とホテルの受付は複数の場所で同時にやっていたのですが、我々の列は先ほどの男の愚にもつかないクレームのせいで、他より時間がかかっていたのでした。あのアホ〜!とさっきの男に対して今さらながら怒りをぶつけると同時に、旅行の全日程をキャンセルすること(全部キャンセルすれば全額返金するが、そうでなければ一切返金しないというのが旅行代理店からの連絡)を視野に入れざるを得なくなってきたため、便に搭乗するかどうかは今の時点では判断しかねる、朝の時点で結論を出すので待ってほしいとの旨伝え、その点の確約をとることにしたのでした。(三に続く)