京極夏彦『姑獲鳥の夏』講談社文庫,1998

文庫版 姑獲鳥の夏 (講談社文庫)
この世には不思議なことなど何もないのだよ、関口君・・・
古本屋にして陰陽師が憑物を落とし事件を解きほぐす人気シリーズ第1弾。東京・雑司ヶ谷(ぞうしがや)の医院に奇怪な噂が流れる。娘は二十箇月も身籠ったままで、その夫は密室から失踪したという。文士・関口や探偵・榎木津らの推理を超え噂は意外な結末へ。京極堂、文庫初登場!

推理小説というのは、滅多に読まない方なんですが、これは面白いです。一気に読み終わりました。

文士・関口や探偵・榎木津らに対する傲慢とすら思える態度、そこから垣間見えるのは"京極堂"の徹底した合理主義者としての一面なのですが、「人間は論理だけでは割り切れない」という彼自身の言葉の如く、理屈だけで全てを語ろうとしないのが彼の魅力でしょう。

"京極堂"は「この世には不思議なことなど何もないのだよ」と云う通り、事件を冷静且つ明晰に分析する一方で、登場人物の心の闇・業(カルマ)を妖怪に擬えて明らかにしていきます。終盤にかけて、その闇が"京極堂"の持つ理性と感性という二つの武器をもって、解きほぐされていく様は鮮やかと言う他ありません。いや寧ろ、

「――これが呪いという、あなた方の分野では扱えない僕の唯一の武器だ」(『魍魎の匣』1017頁より抜粋)

との言葉にあるように、"京極堂"の凄いところはその博覧強記たる知識に基づく理性よりも、言葉によって呪いをかけたり、はたまた言祝ぐことで、事件を精神的に解決することができることにあるのだと思います。