K・V・ウォルフレン『日本/権力構造の謎』早川書房,1994

日本 権力構造の謎〈上〉 (ハヤカワ文庫NF)

われわれ日本人は自分自身について、自分たちの国についていったい何を知っているのか?在日30年のジャーナリストが冷徹な眼でえぐり出したこの国の真の姿に、われわれは慄然とせずにはいられない。日本における権力の行使のされ方に焦点をあて、政治、ビジネス、教育等あらゆる側面からこの国を動かす特異な力学を徹底的に分析した、衝撃の日本社会論。本書に匹敵しうる日本論を、日本人自身はついに書き得なかった。

この本を読んだ時は結構いろいろと衝撃的だった。自分が政治学科に入学するきっかけとなった本。入試の面接の時も確かちらっと言ったはず。

内容は基本的に日本へのダメ出し。日本=異質の前提に立った上で、修正主義(revisionism)の立場から、日本社会に制度化ないし内面化された権力の構造(システム)を、政治・経済・教育・行政・警察などなど多面的に分析している。構造的アプローチはパーソンズに近い。

"異質"という捉え方が極めて相対的で議論の余地があるところではあるが、日本を特殊だと見ることによって理解できることも色々あると思った。日本の社会については『菊と刀』の分析が有名だが、日本人であることによって見えないこと、日本人でないことによって見えることもあるのかもしれない。やくざと警察の関係とか、今でも覚えてるな。

この本が出たのは94年頃。つまりバブルの余韻がまだ残っている頃。あれから10年経った今、ウォルフレンの日本異質論はアナクロになりつつあると思う。

失われた十年」だなんてよく言われるけど、この十年間で日本の構造は確実に変わった。確かに経済的には低成長率が続いたし、資産価値は「失われた」かもしれない。でもこの十年がもたらした構造の変化は、これから訪れる更なる変化を予感させるものではないだろうか。

ウォルフレンの権力構造にみる権力の源泉は、即ち規制権限にある。これらの規制権限はこれまで日本社会を雁字搦めにし、集団主義的色彩の強い日本を強力に牽引するのに効果的な役割を果たしてきた。*1しかし一方で、自由で自律的な社会の阻害要因ともなってきたのである。そこから生まれるデメリットは、ウォルフレンの本が世に出た頃からバブル崩壊とともに、金融業界をはじめとして徹底的に明らかにされてきたところである。

そしていまや規制改革の流れが時代の潮流である。社会の中に存在する規制を減らすこと、それを設定することを無くすことは、権力の源泉を少なからず突き崩すものである。ウォルフレンの権力構造はその意味で、この十年間に変化を被ったはずだろう。

さて、では日本は「人間を幸福にする日本というシステム」*2に変わったのかといえば、そうとは言えないわけで。だからこそ批判的に見る目は常に必要なのかもしれない。

参考:id:lotusight:20040521#p1

*1:ISBN:4484001314 C・ジョンソン『通産省と日本の奇跡』TBSブリタニカ,1982

*2:ISBN:4620310190 K・V・ウォルフレン『人間を幸福にしない日本というシステム』毎日新聞社,1994